日本は少子高齢化などの問題を抱え、解決方法の一つとしてAI導入が期待されています。
既にAIを導入している企業もあり、また将来的に導入を検討している企業も多くあります。
ただ、AI導入にかかる費用の目安が不明確なため、導入に踏み切れない企業もあるでしょう。
今回のテーマはAI導入費用。
AI導入における費用相場を知りたい方の参考になれば幸いです。
AIの導入が推奨されている背景
日本は少子高齢化と総人口の減少により人手不足が大きな問題となっています。
また、労働人口は今後も減少すると予測されており、さまざまな業界においてどのように対応するかが課題です。
人材は企業競争力を左右する一つの要因で、今後も労働人口が減少すれば企業競争力が低下する可能性もあります。
人手不足問題を解決する手段の一つとして注目を集めているのがAIです。
AIを導入すれば多くのメリットがあり、具体的には以下が挙げられます。
◾️|労働力不足の改善
◾️|生産性の向上
◾️|企業競争の向上
◾️|ミスの削減
◾️|安全性の向上
実際に、PwC Japanグループが発表した「2022年AI予測(日本)」によれば、調査企業の53%がAIを導入しています。
AI導入が進む日本ですが多くの課題も抱えています。
例えば、AI開発の知識やスキルを備えた人材が不足しており、開発に関する人件費が高騰。
また、AIに関する法律やルールの整備が遅れているため、トラブルが発生した際の責任の所在が不明確でリスクがあります。
ただ、AI開発の課題を解決するための手段も検討され、今後AI導入が容易になると考えられます。
AI導入にかかる種類別の費用相場
AI導入にかかる費用には大きく3種類あり、それぞれの相場は以下の通りです。
◾️|人件費
- 導入コンサルティング:約40万円〜80万円
- PoC:約200万円〜
- AIモデルの本開発:月額約50万円〜600万円×開発月数
◾️|データの収集と加工
- 画像の加工:約100円〜
- 動画の加工:約10円〜
- テキスト:約30円〜
- ドキュメント:約0.4円〜
- 音声の文字起こし:約250円〜
◾️|ソフトウェアやハードウェア
- システム開発費用の5〜15%程度
AIといってもさまざまな種類があるため、開発するものによって費用が異なります。
ここからは、以下のAIにおける導入費用について詳しく解説します。
AI外観検査・画像認識技術の導入
需要予測AIの導入
AI音声認識技術の導入
AIチャットボットの導入
AIチャットボットとは、自動でユーザーと会話するプログラムのことで、近年企業ホームページなどに実装されています。
AIチャットボットの導入における費用相場は以下の通りです。
項目 | 費用 |
初期費用 | 約5万円〜10万円 |
運用費用 | 約月額30万円〜100万円 |
複雑なチャットボットを開発すればさらにコストが増加します。
最近はチャットボットを導入している企業も多く、具体的にはUNIQLOが挙げられます。
「UNIQLO IQ」というチャットボットを開発し、人気商品やおすすめのコーディネートなどに関する情報をユーザーに提供。
また、ユーザーの位置情報から近くの店舗を割り出し、在庫情報を確認できる機能も実装しています。
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AI外観検査・画像認識技術の導入
AI外観検査・画像認識技術とは、画像や動画を解析するプログラムのことで、セキュリティや異常検知などに利用されています。
AI外観検査・画像認識技術の導入における費用相場は約20万円〜80万円で、それに加えレンズなどの費用も必要です。
大規模なAI導入になれば、さらに多額の費用がかかり相場は以下の通りです。
項目 | 費用 |
初期費用 | 約2,000万円 |
要件定義~導入支援、教育の開発費用 | 約1,000万円 |
ライセンス費用 | 数100万円 |
AI外観検査・画像認識技術は、例えば四国電力が送電線や電柱などに作られるカラスの巣を検知するために利用しています。
カラスの巣は停電につながる原因になりますが、検査には多くの人手が必要です。
AI外観検査を導入したため、業務効率化とリスクの低減に成功しました。
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需要予測AIの導入
需要予測AIとは、過去のデータをもとに商品売上などを予測するもののことです。
これまでは導入に数百万円〜数千万円必要でしたが、近年は料金相場が下がっています。
例えば、KICONIA WORKS社は約300万円〜600万円必要なPoCを、150万円で提供。
イトーヨーカドーも2020年9月から需要予測AIを利用した発注システムを導入しています。
AIが予測した最適な発注量をもとに、店舗の担当者が発注量を決定する仕組みを取り、発注業務に必要な時間を30%削減するとともに、商品ロスの減少に成功しました。
AI音声認識技術の導入
AI音声認識技術とは、人間の音声を認識するもののことで、翻訳や議事録作成などに利用されています。
AI音声認識技術の導入における費用相場は数百万円程度で、他のAI同様大規模なものであれば1,000万円以上。
AI音声認識技術は、駅のインフォメーションセンターで利用され、問い合わせなどの効率化に役立っています。
また、ただ単に問い合わせ対応をするだけでなく、対話ログを分析できる機能を利用し顧客満足度の収集・分析や、サービス改善にも利用されています。
AI導入によるコスト削減につながった事例
前述の通り、AI導入には多額の費用がかかりますが、導入すればコスト削減につながるため、十分な費用対効果を得られるケースもあります。
ここからは、AI導入によりコスト削減につながった以下の事例について詳しく解説します。
AI外観検査・画像認識技術のコスト削減事例
需要予測AIでのコスト削減事例
AI音声認識技術でのコスト削減事例
AIチャットボットのコスト削減事例
AIチャットボットを利用すれば、ユーザーからの問い合わせを自動化可能で、人件費削減につながります。
例えば、ライフネット生命ではLINEやFacebook MessengerにAIチャットボットを組み込んで活用しています。
簡易な質問はチャットボットが自動対応し、詳細なサポートが必要な場合はオペレーターが対応する仕組みを取り入れ、サポートの業務効率化に成功しました。
また、チャットボットは顧客情報と紐づきその情報をもとに回答するため、ユーザーは自分のためのツールとして、安心感や満足感を得て利用できます。
AI外観検査・画像認識技術のコスト削減事例
AI外観検査・画像認識技術は、例えば製造業の製品における異常検知システムに組み込まれ利用されています。
製品に欠陥などがあれば信頼性に関わるため、不良品を検知するために多くの人員を割いています。
例えば、ある菓子製造メーカーは導入費用約700万円、毎年のランニングコスト約120万円を投資し、外観検査・画像認識AIを利用。
決して安くない投資にも関わらず、検査員の削減を実現し大きな費用対効果を生み出しています。
需要予測AIでのコスト削減事例
需要予測AIを活用すれば、在庫ロスや機会損失の発生を防止できます。
実際に、スシローも需要予測AIを活用し廃棄率の75%削減と、原価率を保った状態での売上向上を成功させました。
スシローでは、もともと売れるタイミングと廃棄された寿司のデータを収集していましたが、データが多すぎて活用できていませんでした。
また、需要予測AIだけでなく、購入された皿を画像認識で計測したり、店舗の混雑状況を測定して待ち時間を正確に予測したりするAIも活用しています。
AI音声認識技術でのコスト削減事例
AI音声認識技術を活用すれば、後日話した内容を確認する際などに必要な手間を軽減できます。
例えば、東名では顧客との通話記録内容を確認するモニタリング作業に時間がかかり、多くの人手を割いていました。
音声認識AIにより、通話内容のテキスト化や必要箇所のピンポイント再生を実現。
AI導入前は、1日で15件程度しか通話確認ができませんでしたが、導入後は1時間で60件の通話確認が可能になり、大幅な作業効率アップを実現しました。
AI導入費用をなるべく安くする方法
前述の通り、AIを導入すればコスト削減ができる一方、開発・導入に多くの資金が必要です。
少しでも費用を抑え導入したいと考える方が多いのではないでしょうか。
ここからは、AI導入費用をなるべく安くする以下の方法について詳しく解説します。
月額制開発を利用する
AI開発ツールを利用する
補助金の有効活用
AI導入費用をなるべく安くする方法の1つ目は、補助金を有効活用することです。
国や地方自治体などは、企業の売上増加や業務効率化、コスト削減の実現に向け、支援策の一環でさまざまな補助金を提供しています。
補助金の中にはAIの開発・導入が対象となるものも存在し、具体的には以下が挙げられます。
◾️|IT導入補助金
◾️|事業再構築補助金
◾️|ものづくり補助金
◾️|持続化補助金
補助金を活用すれば、自社のみでAIの開発・導入コストを負担する必要がないため、費用面だけでなく心理的ハードルも下げられるでしょう。
AI導入に関する補助金について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
≫≫【2023年最新版】AI開発や導入で使える補助金制度を解説
月額制開発を利用する
AI導入費用をなるべく安くする方法の2つ目は、月額制開発を利用することです。
月額制開発は、プロジェクトの完了に対して費用を支払うのではなく、毎月定額の費用をかかった期間に応じて支払うもので、アジャイル開発が該当。
アジャイル開発とは、開発における以下の工程を、各機能ごとにスピーディーなサイクルで繰り返す開発手法です。
◾️|計画
◾️|設計
◾️|実装
◾️|テスト
開発するAIの機能を細分化しスピーディーにPDCAを回すため、仕様変更や不具合の修正に柔軟な対応ができ、工数を抑え顧客ニーズを反映したAI開発が可能です。
開発期間が短縮するだけでなく開発コストの削減にも効果があります。
AIのアジャイル開発について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
≫≫ AI開発で行われるアジャイル開発とは?歴史的背景からメリットまで解説
AI開発ツールを利用する
AI導入費用をなるべく安くする方法の3つ目は、AI開発ツールを利用することです。
通常、AIを開発するためには専門知識やスキルと開発する環境が必要です。
AI開発ツールを利用すれば環境を用意する手間が不要になります。
ツールの中には専門知識やスキルがなくても直感的な操作で開発できるものもあるため、専門人材に依頼するコストを削減できるでしょう。
また、既存のAIモデルを利用できるものがあり、一から開発する必要がないため迅速な開発が可能でコストも抑えられます。
AI開発ツールは多数あり、例えば以下が挙げられます。
◾️|Watson Assistant
◾️|Dialogflow
◾️|Amazon SageMaker
AI開発ツールについて詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
≫≫ おすすめAI開発ツールを目的別に紹介!選び方や導入するメリットも解説
まとめ
AI導入には多額の費用が必要なケースがありますが、コスト削減効果も期待できます。
また、人手不足の解消や企業競争力の向上、ミスの防止などさまざまなメリットがあります。
AI導入コストを抑えるためには、補助金の有効活用や月額制開発の実施、AI開発ツールの利用などをするのがおすすめです。