AIの技術を活用したシステムやサービスの利用が普及してきていますが、AIがもたらす「AI経済効果」について知らない方も多いのではないでしょうか?
本記事では、AI導入での日本の経済成長にどのように貢献できる可能性があるのかや、「AI失業」のようにAIの普及で社会にもたらされる悪影響にはどのようなものがあるのか、事例を用いながら解説していきます。
AIがもたらす経済効果
マッキンゼー・アンド・カンパニーは、AIが2030年までに約13兆米ドルの追加経済効果をもたらし、世界のGDPを毎年約1.2%増加させる可能性があると予測しています。
これは主に、自動化による労働の代替と、製品やサービスにおける技術革新が起因すると考えられています。
AI導入が盛んな業種
AI技術の発展による経済効果は11兆円
日本では、令和2年度戦略的基盤技術高度化・連携支援事業(中小企業のAI活用促進に関する調査事業)で、中・小規模事業者の労働生産性の向上が喫緊の課題とされています。
AIの技術の利活用が進めば企業の生産性の抜本的改善が期待できるとあり、そのために「各企業のAIリテラシーを高めることが不可欠」と記載されています。(※1)
実際に、中小企業におけるAI導入の効果は、労働人口効果160万人相当を最大で推計した場合に、経済効果は2022年で2兆円、2025年には11兆円とされ、労働人口効果(※2)は2022年で29万人、2025年には157万人に相当すると算出されています。
※1 「令和2年度戦略的基盤技術高度化・連携支援事業(中小企業のAI活用促進に関する調査事業)調整概要の一部抜粋
※2 人件費最適化による経済効果を、1人当たり人件費約370万円(例:給与、福利厚生)で除算し算出
AI導入が盛んな業種
AIの導入や利用が様々な企業で進められてきていますが、AI導入が盛んな業種に金融業と製造業が挙げられます。
金融業においては、ローン申請をコンマ1秒でソフトウェアロボットが処理していたり、ロボ・ファイナンシャル・アドバイザーが複数のレベルのデータを一瞬で選別し、顧客に正しい投資判断を推奨したりしています。
金融業界のAIのもう一つの重要な用途に、不正行為の検出があります。
例えば、Mastercardは、AIベースのDecision Intelligence技術を活用し、さまざまなデータポイントを分析することで不正な取引を検知しています。
また、製造業では人員計画から製品設計に至るまで、複数のラインやレイヤーでAIが採用され、効率化、製品の品質向上、従業員の安全の向上を実現しています。
工場では、機械学習と人工ニューラルネットワーク(※)で、産業機器の予知保全をサポートし、機械の故障を予測しています。これにより、経営者は機器を復旧させるための対策をスムーズに実行でき、コストのかかる計画外のダウンタイムを防止することができます。
品質管理では、AIアルゴリズムが製品の品質問題につながる可能性のある製造上の欠陥を製造部門に通知するために使用されています。
※ニューラルネットワークを解説した記事で、詳細をご覧ください。
≫≫ ディープラーニングと機械学習の4つの違いとは?それぞれの特徴をわかりやすく解説
AI技術の発展がもたらす影響
AIはビジネスシーンで退屈なルーティンワークや危険な仕事を人間に代わり行うことで、人間の労働力は解放され、創造性や共感性が必要な仕事など、より重要な仕事に集中できる環境の創出をしてくれます。
本章では、AI利用でメリットを得られる4つのシーンをご紹介します。
新しいビジネス分野の創出
市場予測の改善
経済成長の促進
生産性向上
AIの利用でよく挙がる生産性の向上は、主に2要素から生産性の向上に貢献しています。
1つ目にプロセスの自動化があります。AIはデータ入力や分析などの作業を人間よりもはるかに速いペースと精度で実行し、労働者は戦略策定や問題解決など、自動化しづらい価値の高い仕事に集中できます。
2つ目にビジネスプロセスの最適化があります。AIは、膨大なデータを分析し、製品の供給管理、在庫管理などの非効率な領域を特定します。
特定された領域はプロセスを合理化し、生産性の向上とコスト削減に繋げます。
また、AIは意思決定の自動化にも利用でき、企業はデータに基づいた意思決定をリアルタイムで行い、より効果的にリソース配分ができるようになります。
新しいビジネス分野の創出
AIが解決してきたことに大規模データの解析があります。人手では解析しきれない量のインターネット上に蓄積された大規模なビッグデータをAIが解析しています。
これらの過程で、顧客の不満やまだ解消されていないニーズを解決するソリューションやサービスが見つかる可能性があります。
実際に2019年から本年に至るまでのAIの技術を活用した新サービスは、農家の収穫時の人手不足を解決したり、アパレルの商品廃棄の課題を解決する需要予測に利用されたり、さまざまな社会課題の解決に利用されています。
市場予測の改善
市場予測を行う際には、何百もの過去のデータの記載された文書や統計に目を通しリサーチを行うことが必要です。
AIを利用することで、AIが文書から情報を収集し、レビュー時間を短縮し、将来の意思決定やイベントに情報を提供することで業務効率を向上させます。
実際に有限責任監査法人トーマツは2022年10月から「Audit Suite Text Reviewer」を開発、導入しています。
日本語の契約書等の専門文書と公認会計士等が有する検討のノウハウをAIに学習させ、監査業務の効率化と、公認会計士などの専門家が高度で複雑な業務に集中できるよう推進しています。
経済成長の促進
AIは各業界のビジネスやサービスに多くの影響を及ぼしています。
AIは、より正確でリアルタイム性の高いオペレーションを実現し、従業員満足度の向上、より良い顧客サービスの提供など、その導入に伴うメリットは数多くあります。
よりよいサービスの購入・利用体験は更なる購買を促進します。
より多くの企業がその可能性に気づき、新たなユースケースを創り続けていくことで、AIを利用した技術も今後ますます向上し、技術の向上が経済成長の促進に繋がります。
AI技術の進歩による3つの可能性と対策
前章でご紹介したように、AIの普及にはメリットも多くありますが、デメリットが生じる可能性もあります。
ここでは、デメリットとして示唆されている3つの事例をご紹介します。
AIの偏見や差別が発生する可能性
個人情報保護が守られない可能性
AIによる業務自動化で失業者が増える可能性
AIを活用した働き方改革により、これまで人間が人手で行っていた業務が自動化され、はるかに速い速度で業務が進みます。
これにより、ロボットが代行できる業務に従事する労働者の仕事が段々と減少していき、失業者が増加する可能性が示唆されています。
一部の物流業界や農業など、人手や後継者不足に課題がある業界にはこれらの課題を解決する手段として期待されていますが、一方でロボットによる効率化が進展していくと、人間の仕事が減少していく可能性があります。
経済産業研究所の「AIが日本の雇用に与える影響の将来予測と政策提言」では、今後3~5年で減る見込みの職種に、以下があります。
- 一般事務・受付・秘書
- 総務・人事・経理
- 製造・生産工程・管理
一般事務や受付は現在提供されているAIシステムのレベルでも大半が対応可能だと言われており、これらの職種の仕事が減少することが予測されています。
AIの偏見や差別が発生する可能性
AIの利用で注意すべきことに、提供されるデータに偏りや差別が含まれる可能性があることがあります。
「人工知能のバイアス」とも呼ばれ、機械学習時に誤った前提を学習し、結果として偏った結果をもたらす場合があります。
結果を導き出す過程で、バイアスを強化する場合があり、多様性が高まる社会において、さらに問題が深刻化することが懸念されています。
例えば、顔認識アルゴリズムは、理由として訓練時のデータで白人がより多く使用されていたことから、黒人よりも白人の方が認識しやすいように訓練されている可能性があります。
この問題は意図せず引き起こされる場合があり、最終的な結果に至るまで表面化しにくいという課題があります。
AIを利用する際には、バイアスが反映されたデータがあることを念頭に置き、データを鵜呑みにせず、精査や判断する必要があります。
個人情報保護が守られない可能性
AIの重要な課題の1つにプライバシー侵害に利用される可能性があります。
AIシステムは膨大な量の個人データを必要とし、このデータが悪用されると、個人情報の盗難やネットいじめなど、悪意のある目的に利用される可能性があります。
これらの個人情報保護の観点は近年のAIをどのように使うかについての倫理的な選択をするための議論の的になっています。
技術の倫理を考慮し、プライバシーの課題を解決することは、AIの長期的な成功に不可欠ですので、技術革新とプライバシーへの配慮のバランスをとることで、長期的に公共価値の創造を支援できる、社会的に責任のあるAIの開発が促進されつつあります。
まとめ
AIが今後の社会情勢や労働市場に大きな影響を与え、生産性に大きく寄与し、経済成長を促進すると予想されています。
AIによる自動化で現在の職を奪われる労働者も生じますが、データ分析やAI開発などより高度なスキルを必要とする特定の新しい仕事に就く労働者のニーズも高まったり、AIが新しい産業やビジネスを生み出したりし、雇用創出と経済成長に繋がる可能性もあります。
我々の生活や労働環境もこれからの数年で大きく変革することが想定されるため、AIの動向や社会情勢を見極めていくことが重要です。